「何時間寝れば正解?」という疑問が、睡眠を難しくしている
「自分にとって、どれくらいの睡眠時間が適切なんだろう?」
多くの人が一度は考えるテーマです。
かつては
「最低6時間必要」「7〜8時間が理想」
といった“万人に共通する基準”が語られた時代もありました。
これらには確かに、疫学研究や大規模調査に基づく根拠があります。
(※代表的なのは 睡眠時間と死亡率のU字カーブ研究 や、
米国睡眠財団の National Sleep Foundation ガイドライン など。)
しかし近年では、
「睡眠時間は個人差が大きい」
「必要量はライフステージや生活負荷で変化する」
という考え方が主流になってきています。
この記事では、
従来の“決めつけ型の睡眠時間”とは異なる、
現代の医学が推奨する「適正睡眠時間の見方」 を解説します。
適正な睡眠時間は「推奨値 × 自分の体調」で決まる
適切な睡眠時間には個人差がありますが、
“科学的な推奨値” と “あなた自身の体調からのサイン” の
2つを組み合わせることで現実的に導くことができます。
米国睡眠医学会(AASM:American Academy of Sleep Medicine) と
全米睡眠財団(NSF:National Sleep Foundation) は、
成人は 7〜9時間 を推奨するとしています。
ただし働く大人では、仕事・家庭・生活リズムにより
この時間を確保しにくいケースも多いため、
日中の眠気・集中力・気分の安定などの体調指標に基づき、
15〜30分ずつ調整する方法が最も現実的です。
つまり、
「7〜9時間」を基準にしつつ、
自分の体調で微調整していく。
これが、現在最も合理的で実践的な
「あなたにとっての適正睡眠時間」を見つける方法です。
なぜ「7〜9時間」が基準になるのか――睡眠医学の共通認識
睡眠時間には個人差がありますが、
医学界では American Academy of Sleep Medicine(AASM) と
National Sleep Foundation(NSF) が、
年齢ごとに「健康維持に適した睡眠時間の推奨値」を示しています。
成人(18〜64歳)では、
7〜9時間がもっとも健康リスクが少ない範囲 とされています。
この推奨値は、
心血管疾患・代謝異常・メンタルヘルス・日中のパフォーマンスなど
複数の研究データを統合して導かれた科学的な目安です。
ただし、推奨値は“平均的に最も安全なゾーン”を示したもので、
全員に当てはまるわけではありません。
同じ7時間でも差が出る理由――睡眠に個人差が生まれる仕組み
適正な睡眠時間は、人によって大きく異なります。
その理由として、次のような 生理学的要因 が知られています。
- 深い睡眠(徐波睡眠)の量に個体差がある
- 体内時計(サーカディアンリズム)の特性
- 年齢による睡眠構造の変化
- 遺伝的な睡眠需要量の違い
同じ7時間でも「回復した」と感じる人と「足りない」と感じる人がいるのは、
睡眠の“質と構造”が個々で異なるため です。
このため、推奨値を“絶対値”として扱うのではなく、
自分の体がどう反応するかを見ながら調整する必要があります。
自分に必要な睡眠時間を知る、もっとも現実的な考え方
睡眠医学の研究者である 柳沢正史教授(筑波大学) は、
「科学的にもっとも正確に睡眠時間を測定する方法」として
十分な睡眠時間を確保できる期間を数日〜1週間つくり、
起床時の体調が安定する“平均睡眠時間”を把握する
というアプローチを紹介しています。
これは、
「自分の体が自然と回復するのに必要な睡眠量を測る」方法
であり、非常に理にかなっています。
もちろん、実生活で長期間の調整が難しい人も多いため、
現実にはこの考え方をヒントとして “自分の必要量を把握する姿勢” を持つことが重要になります。
今日からできる|適正睡眠時間の見つけ方【3ステップ】
① 起床時間から逆算して「基準の睡眠時間」を決める
働く大人の多くは、平日の起床時刻がすでに固定 されています。
これは体内時計にとって大きなメリットです。
まずは、起床時間を軸に AASM/NSF が推奨する
7〜9時間の範囲で「就寝の目安」をつくります。
- 起床:6:30→ 就寝:22:30〜23:30
ここで大きく変える必要はありません。
“起床を中心に、寝る時刻をそっと整える”イメージで十分です。
② 朝の体調で「+15〜30分だけ」微調整する
睡眠時間は急に増減させるほど乱れやすいため、
調整幅は 15〜30分以内に限定するのが安全で現実的です。
調整の目安:
- 朝の疲れが強い/スッキリ感が弱い
→ 就寝時刻を15〜30分 早める - 寝すぎた感・頭が重い
→ 就寝時刻を15分 遅らせる
※大事なポイント:毎日変えず、3〜5日同じ睡眠時間で様子を見ること。
③ 適正睡眠時間は「固定値ではなく変動する」
睡眠時間は次の要因で変動します:
- 季節(特に冬)
- 仕事量の増減
- 子育て・家庭の状況
- 年齢
- 体調の波
誰にとっても「生涯ずっと同じが正解」はありません。
まずは“いまの生活に合ったちょうど良い睡眠量”を探してみるといいと思います。
Q&A 睡眠時間について、よくある疑問に答えます
Q1「7〜8時間寝ないとダメですか?」
一般的に 7〜9時間が推奨と言われますが、
これは “平均値の目安” であり、全員に当てはまるわけではありません。
医学的には、
- 日中の眠気が強くない
- 生活に支障がない
- 朝のだるさが軽い
こうした状態なら、その人にとって適正睡眠時間の範囲 と考えられます。
Q2「短時間睡眠って医学的にアリ?」
“ショートスリーパー” の概念はありますが、
遺伝的に本当に短眠で問題ない人は、人口の1〜3%程度とされています。
多くの場合、
- 本当は眠気があるのに気づけていない
- 慢性的な睡眠不足に脳が慣れてしまった
- 仕事・育児で仕方なく短眠化している
といったケースが多いため、
健康戦略として 意図的に短眠化を目指すのは推奨されません。
Q3「休日くらい睡眠時間を多めに取りたいけど、良くない?」
休日に +1時間程度までの延長にとどめましょう。
これくらいなら体内時計の乱れは比較的少なく、実践しやすいとされています。
ただし、
- 平日との差が2時間以上開く
- 昼まで寝る
- 起床時刻が毎回大きくズレる
こうした習慣は “社会的ジェットラグ” と呼ばれ、
夜の眠気が遅れ、翌週の睡眠が乱れやすくなります。
受診目安 「睡眠時間」ではなく「不調」が続くときは相談を
以下のような場合は、医療機関での相談をおすすめします。
- 不眠または日中の強い眠気が 2週間以上 続いている
- 仕事・日常生活に支障が出ている
- 動悸・めまい・抑うつ感など、他の症状を伴う
- 睡眠時無呼吸が疑われる(いびき、息が止まる、強い眠気)
※ 睡眠の問題には医学的な要因が隠れていることもあります。無理せず早めの相談を。
睡眠シリーズ|関連リンク
- 睡眠各論①:起床と体内時計 起床時間の固定とサーカディアンリズムの整え方
- 睡眠各論②:睡眠時間の最適化 必要睡眠時間の個人差と、量より質の考え方
- 睡眠各論③:昼寝のコツ 正しい昼寝の方法と午後の生産性との関係
- 睡眠各論④:光と睡眠リズム 朝と夜の光刺激が体内時計に与える影響
- 睡眠各論⑤:運動と睡眠の質 運動のタイミングと強度が睡眠に及ぼす効果
- 睡眠各論⑥:カフェインと寝酒 カフェインの半減期と寝酒が睡眠を悪化させる理由
- 睡眠各論⑦:寝室環境(温度・光・音) 環境調整で入眠と睡眠の質を最大化する方法
- 睡眠各論⑧:メンタルと睡眠 思考の暴走と自律神経の乱れが睡眠を妨げるメカニズム
- 睡眠各論⑨:眠れない夜の行動 悪循環を断つ行動戦略(CBT系アプローチを含む)
- 睡眠各論⑩:睡眠負債と休日調整 寝だめの科学と、週末で整える正しい方法
- 睡眠各論⑪:睡眠の本質レム 睡眠・ノンレム睡眠の役割と“脳が眠る理由”
- 特別編:CBT-I(不眠の認知行動療法) 世界標準の不眠治療を生活に取り入れるために

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