運動すれば眠れる?──睡眠に効く運動と逆効果になる運動の違い
「運動すれば寝つきが良くなる」「ぐっすり眠れるようになる」。
よく耳にする言葉ですが、これは半分正しく、半分は条件次第です。
実際には、**運動の“質”と“時間帯”**が睡眠の作用を左右します。
日常生活に適切な運動習慣を組み込むことは、
睡眠の改善だけでなく、生活習慣病予防やメンタルの安定にもつながる重要な要素です。
では、睡眠医学の観点からみると、運動はどのように睡眠と結びつくのか。
本記事では、その仕組みと実践方法をわかりやすく解説していきます。
睡眠を良くする運動の結論|カギは「時間帯」と「やりすぎない強度」
- 運動は睡眠の質を改善し得るが、効果は“時間帯”で大きく変わる。
- 夕方〜日没前の運動が、深部体温リズムが整い入眠しやすい。
- 寝る2時間以内の激しい運動は、体温と交感神経を高めてしまい逆効果になりやすい。
- 有酸素運動と筋トレはどちらも睡眠に好影響を与え得るため、継続しやすい方法を選べばよい。
なぜ運動は睡眠に効くのか|体温・体内時計・自律神経の医学
1)運動が睡眠に影響する“核心”は深部体温のリズム
人は、深部体温(身体の中心の温度)が下がるときに眠気が強くなる特徴があります。
運動によって一時的に深部体温が上がり、その後ゆっくりと下降します。
- 夕方の運動 → 夜の入眠タイミングと“体温下降”が一致しやすい
- 寝る直前の高強度運動 → 体温と交感神経亢進が残り、入眠が遅れる
こうした体温リズムの変化が、時間帯による睡眠効果の違いを生みます。
🔎 参考
複数の研究で、中強度の定期的な運動が睡眠の質に良い変化をもたらす可能性が示唆されています。
2)運動は体内時計(サーカディアンリズム)の“補助同調因子”
体内時計は主に光で調整されますが、運動も同調因子(zeitgeber)として働くことが知られています。
- 朝:軽い運動は時計を“前に倒し”、夜の眠気が整う
- 夕方:深部体温リズムが安定
- 夜:強い運動はリズムを乱すことがある
光 × 身体活動という複合刺激が、より安定した睡眠リズムをつくります。
3)セロトニンとメラトニンの関係
運動は日中の覚醒に関わるセロトニン神経系を刺激する可能性があるとされ、
セロトニンは夜間のメラトニン合成の材料になります。
ただし、
- 運動 = メラトニン“増加を保証”する
という単純な話ではありません。
現段階の研究では、「日中の活動性が適切であるほど夜のホルモン分泌が整いやすい」という傾向が示唆される程度です。
4)自律神経バランスが整う
適度な運動は交感神経と副交感神経の切り替えをスムーズにし、
夜のリラックス状態への移行を助けます。
- 適度な強度 → 自律神経の反応性が向上
- 強すぎる負荷 → ストレスホルモン増加で睡眠が浅くなることも
「やればやるほど良い」ではなく、適度がもっとも有効です。
5)有酸素運動と筋トレの特徴(どちらでも良い)
研究では、
- 有酸素運動 → 深睡眠の増加が示唆
- 筋トレ → 寝つき改善・睡眠効率の向上
といった傾向があります。
作用は異なるものの、睡眠改善においては続けやすさが最重要です。
今日からできる|睡眠の質を高める運動のタイミングと続け方
1)夕方の運動がもっとも睡眠に好影響
夕方〜日没前(16〜18時)の運動は、深部体温のリズムと一致しやすく、入眠しやすさ・深い睡眠につながりやすいとされています。30〜45分程度の中等度運動を目安にしましょう。
2)朝は“軽めの運動”で体内時計を整えましょう
朝の運動は体内時計を整える働きがあります。
ストレッチ、散歩、軽い有酸素運動など、負荷をかけすぎない範囲が適しています。
3)寝る2時間以内の激しい運動は避ける
寝る直前の高強度運動は、深部体温や交感神経の活動が残り、かえって眠りにくい状態をつくることがあります。
夜に運動する場合は、強度を下げる、クールダウン時間を長めに取るなどの工夫を。
4)強度は“少し息が上がる程度”が基本
睡眠改善を目的とするなら、過度な負荷は不要です。
「軽く汗ばむ」「会話がギリギリできる程度」を目安にし、無理なく続けられる強度を選びましょう。
5)週150分(中等度)の運動が1つの目安
WHOや国のガイドラインでは、週150分程度の中強度運動が推奨されています。
睡眠の質改善でも、この程度の“継続可能な活動量”が参考になります。
(例)
- 30分 × 5日
- 50分 × 3日
6)夜しか運動できない日は「種類」を変える
- 強度を下げてウォーキングやストレッチ
- ヨガや低負荷のレジスタンス
- 遅い時間帯なら心拍数を上げすぎない方法を選ぶ
「やらない」より、身体を整える方向に調整して続けることが大切です。
Q&A 運動と睡眠のよくある疑問に答えます
Q1:筋トレだけでも睡眠は良くなりますか?
筋トレにも、寝つきが早くなる・中途覚醒が減るといった効果が報告されています。
深睡眠を増やす可能性がある有酸素運動とは作用が少し異なりますが、どちらも睡眠の改善に寄与し得ます。
継続しやすい方を選ぶことが大切です。
Q2:夜しか運動できません。やめたほうがいいでしょうか?
必ずしもやめる必要はありません。寝る前の高強度運動は避けつつ、強度を下げる・クールダウンを長めに取るなど工夫すれば、夜間の運動でも取り入れられます。低強度の有酸素運動やストレッチに切り替えるのも選択肢です。
Q3:短時間の散歩やストレッチでも効果はありますか?
はい。
「運動=ハードなトレーニング」という必要はなく、軽い散歩やストレッチでも体内時計を整え、自律神経を落ち着かせる助けになります。特に朝の軽運動は小さな効果でも積み重ねやすいポイントです。
【 受診の目安】
- 数週間以上、睡眠の質が低下したまま
- 日中の眠気で仕事や生活に支障がある
- いびき・呼吸停止・むずむず脚などを伴う
- 生活習慣を整えても改善しない
- 不安が強く、自分だけで調整が難しいと感じる
→ 詳しくは「睡眠に関する受診の目安ガイド」をご覧ください。(内部リンク)
睡眠シリーズ|関連リンク
- 睡眠各論①:起床と体内時計 起床時間の固定とサーカディアンリズムの整え方
- 睡眠各論②:睡眠時間の最適化 必要睡眠時間の個人差と、量より質の考え方
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- 睡眠各論⑤:運動と睡眠の質 運動のタイミングと強度が睡眠に及ぼす効果
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